僕は高校を卒業すると、浪人して受験勉強に備えるために上京しました。そして、その予備校の同じクラスの女の子に一目惚れしてしまいました。彼女は、痩せた髪の長い女の子で、特別美人というわけではありませんでしたが、特徴的な顔立ちをしており、また、物静かで控えめな性格が、とても男の子にウケ、クラスで一番人気のある子でした。僕は、遠くからその子を見つめるのが精一杯で、とても声をかける勇気はありませんでした。その時分は、わたしも少しはモテて他の女の子からアプローチをかけられたりしましたが、その子のことと、有名大学に進学することで頭が一杯で、付き合ってみようという気にはなれず、また、そんな人間関係の煩わしさがイヤになって、あまり予備校にも顔を出さなくなり、その子と会うこともなくなって、結局は、告白することさえできずにお互いに別々の大学に進学し、それっきりになってしまいました。
失恋からの立ち直り
しばらくは、その子のことが頭から離れませんでしたが、東京での生活はお金もかかるので、アルバイトをしたり、また、その頃、文学書など非常に読書に凝っていて本を読むのに忙しかったので、彼女に会いたい、という強い願望がだんだんと弱くなっていきました。文学書やエーリッヒ・フロムの心理学の本が、恋愛についての自分の考えがいかに幻想であったかを、教えてくれたような気がします。
20代で、他の女性とも知り合え、見た目だけに魅かれているうちは、まだまだ子供だと悟ったのでしょう。